企画書(PDF:292KB)

軍都王子の兵器工場本部で、歴史の痕跡を探す。

北区最大規模の中央公園の正面入口、通りから市民広場を介して奥まっているにも関わらず、人のスケール感をやや超えたボリュームでドーンと立ちはだかるのは「旧東京第一陸軍造兵廠本部」。建物の輪郭を彩る木々は見上げるほど高く、建物の上部へと視線を誘う。外観はアール・デコ風で、外壁のパラペット周りにはロンバルディアバンドという西洋建築の装飾が施され、それがアクセントになっている。ロマンティックと感じるか、堅牢で威圧的と感じるか。外壁の白さがその解釈をあいまいにしていて、いかようにも受取れることがロケ地として重宝される理由の1つだと思う。この建物の立地や歴史背景と現在の役割に触れると、いま少し合点がいくかもしれない。

公園内には野球場やテニスコート、サイクリング・マラソンコースなど充実。災害時の避難場所として、水の確保その他多角的機能を持つ。文化センターは北区民の生涯学習施設で、B1Fから2Fまで内装改修された学習室・会議室・視聴覚室・工芸室・美術室などを備え、有料で登録団体のみ利用可。災害時には文化センターと公園が一体となって、区民収容・集会機能を果たすであろうことが想像される。戦前に軍用地であったこの地は、現在では学習や憩いの場のみならず、隣接する自衛隊の存在と供に、災害に強い区民施設として想定されていることが伺える。そう思うと、東京ドーム1.5倍という広大な公園の芝生越しに見える自衛隊基地の水色の鉄塔が、まるで平和のモニュメントのように見えてくるから不思議だ。

今回は竣工当時〜接収時代の痕跡を求めて、通常非公開の3F塔屋部分と屋上を特別に見せて頂いた。2層吹抜けになった室内は、高い位置にある縦長の窓から光が差し込み、とても明るい。壁と天井の境目のモールディングや窓の形状など、軍施設といえどもきちんとデザインされたものであることが伺える。内壁はベージュに塗装されており、接収時のものか改修時のものかは、資料がないとのこと。何か痕跡はないかと唯一見つけたのが、奥の低層倉庫のささくれ立った壁。何か剥がしきれないものの上からベージュに塗ったような凹凸があり、剥離箇所に白い塗装の跡が見えた。竣工当時の外壁は煉瓦タイルの茶色だったというが、接収時に米軍によって外壁同様、内壁も白く塗装され、返還後にベージュに変更されたのではないかというのが少ない情報の中での私の仮説だ。そしてもう1つの今回の目的、屋上から軍都王子の桜を見るために、外に出た。その模様は、報告書とスライドショーをどうぞご覧下さい。(企画者)

[参考/中央公園文化センターパンフレット・他提供資料・中央公園文化センターHP] 現地取材2009.04.04

対象写真




当サイト内全ての記事、写真、画像の転載・引用を禁じます。
自身が撮影した「九段下テラス」内観写真を掲載するときは必ずメールにてご連絡ください。
取材、その他のお問合せはこちらからお願いします。

2007 Ryouiki tansa Deseign