企画書(PDF:228KB)

教科書印刷工場と社屋編

(株)リーブルテックは1968年(昭和43)に東京書籍から印刷・製本・発送部門を分離独立した会社。かつて道を挟んで一体として計画された東書文庫の建物同様、工場・事務棟・警備室が北区指定有形文化財となっている。敷地内には戦争を生き延びた20本ほどの桜があり、この日満開を迎えていた。「敷地外に出た枝とか落ちた花びら、枯葉の処理が結構大変。」ご対応頂いた総務の佐藤さんはそう言って笑った。

建築 ボールト屋根の工場はRC造平屋建で、長手方向は約80mにも及ぶ。円弧を描く外壁下部にはスクラッチタイルを使用。小屋組は当時日本で開発された最新鋭のダイヤモンドトラスで、無柱の大空間を可能にし、印刷製本機械の配置や搬出入がしやすいように設計された。「1本だけ、黄金のボルトがある。」佐藤さんは天井の1点を指差した。おおっ!これぞ職人の心意気。そこで気になるのは、文化財管理の苦労。

文化財の管理 外壁の剥離補修用に保管されているスクラッチタイルは、在庫100枚残すのみの貴重なものとなったが、構造的には耐震補強無しで未だ健在。多くの昭和初期の建物が抱えるアスベスト問題はここでも例外ではなく、屋根材の波形スレートへの混入が判明しているが、大規模改修時の注意点を行政から言われている以外、特に支障はないという。 

戦争の痕跡 アール・デコの照明や鉄製の装飾が美しい事務棟の玄関で、戦争の痕跡や影響について尋ねた。「コレはなんですか」と何気なく指差す点検口のような金属扉の先が、黒光りする金庫につながる緊急脱出用のダクトだったり、応接室のテーブルをずらすと木の床材に焦げ後が点々と現れ、焼夷弾痕と聞いて度肝を抜かれる。不発弾だったそうだ。近くに国立印刷局があり、GHQが接収目的でピンポイントで空爆を避けたかもしれない、とも。戦時中の金属供出について聞いた。東書文庫では建物外部の金属装飾が供出のため失われたというが、工場の鉄製印刷機械の供出があったか否かは定かでないらしい。一時、物資供給が途絶え、完全に生産が停止した事実があるのみ。いずれにせよその休止した間、一帯が火の海となる中で社員の懸命な消火活動が建物を救っていたことに変わりはない。

教科書 先日のニュースで話題となっていた、来年度からの新体制教科書のページ増加と作業の影響について伺った。「ページ数増加に伴って、紙を薄くする対策を講じている。インクの裏映りや裏抜けを防止するため、印刷スピードを落としてインクを盛りすぎず、色調を落とさず、より印刷の技術的注意が要る」とのこと。

工場見学 本社・工場には、小学生の社会科見学や中学生の修学旅行等、年間30〜50校が見学に訪れる。工場の概要や製造品目等の解説を受け、一連の教科書の製造工程を見ることができる。なお、一般個人への公開は受け付けていないのであしからず

まとめ 都電の車窓から工場の屋根が見えたときの衝動に駆られて、文化財建築での戦争の痕跡と変遷する教科書と変わらぬ桜に出会うことができた。引力のある建物には、必ずドラマがあるといつも感じる。ご対応頂いたリーブルテック様に心よりお礼申し上げます。(企画者/新藤)

[参考/(株)リーブルテックHP] 現地取材2009.04.06

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